細胞説 wikipedia|無料辞書
細胞説(さいぼうせつ)とは、あらゆる
生物は
細胞から成り立っているとする学説。さらに細胞が生物の構造および機能的な単位であり、
生命を持つ最小単位であるとする現在の認識の基礎となった。ある意味で細胞説は近代的な生物学の始まりである。
◆ 概説
細胞説とは、細胞が生物の構造および機能の上の単位であるとする説である。18世紀前半に成立したとされるが、当初のそれはさらに細胞がどのようにして形成されるかをも論じるものであった。その部分については誤りが多かったため、その後多くの部分が修正された。しかし細胞が生物の基本的な単位であるとの考えはむしろ強まったといってよく、現在もその点では変わりはない。現在的な意味での細胞説の考え方はほぼ1870年代頃に固まったとされる。
細胞は
顕微鏡の発達によって発見された。多くの観察が重ねられる中で、様々な生物の体が細胞からできていることが確認され、また19世紀に組織や細胞のレベルの形態学が発展し、次第にすべての生物の体が細胞からできている、という考えが認められるようになった。
1838年に
マティアス・ヤコブ・シュライデンが
植物について、1839年に
テオドール・シュワンが
動物についてこの説を提唱した
。これをもって
生物学における細胞説の成立と見なすのが普通である。ただし、シュライデンのそれが純粋に植物に関するものであったのに対して、シュワンのものは植物を含む形であったこと
、シュライデンに先立って予報を出していたことから、こちらを細胞説の提唱者とすべきとの論がある。
彼らの説は生物の体の構成要素であり、機能の単位であることを認めたが、詳細では混乱が多かった。また細胞の起源についても彼らの考えは間違っていた。しかし次第に細胞を単位とする観察が積み重ねられ、細胞が生命現象を示す最小の単位であるとの概念が成立するに至った。1858年に
ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョーは「すべての細胞は細胞から生じる」と述べているのは、これに基づく言明であり、さらに生命の連続性を細胞の生命に求める考え方がはっきりしてきたことが伺える。
◆ 細胞説の考え方
細胞説とは、上記のように時代によってその内容も変貌し、またあまりにも基本的なので、その表現は多様である。たとえば生物学事典第3版では以下のように述べている。
・'細胞はすべての生物の構造および機能の単位であり、いわば生物体制の一次的要素である'
細胞が生物の構成の単位であるというのは、あらゆる生物の体が細胞を単位として形成されている、ということである。より具体的に言うと、生物の体は、細胞か、かつて細胞であったものか、細胞が分泌したものの積み重ねと組み合わせで作られている、ということである。植物の場合はほぼ細胞そのものと死んだ細胞の
細胞壁でできている。動物の場合、細胞間に細胞が分泌した成分が多い。これは、見方を変えると体の様々な性質の異なる部分も、同じ細胞というものでできている、ということである。実際には各部分で細胞の形は異なっているのだが、それらはすべて同じ細胞というものが姿を変えたものだとの判断である。その点では動物に見られるものと植物のそれととを同じく細胞と扱うのも同じ見方による。
機能においても、細胞が
代謝、刺激への反応、
成長といった生物に独特の性質を細胞が持つとする。
生殖に関しては、最初の細胞説が問題であった部分であるが、その後に
細胞分裂が細胞の増殖法として認められたことで、やはり細胞がその性質を持つとの認識に至った。
構造の面では、細胞内部の構造も問題になる。細胞説の成立の頃は、まだ顕微鏡も性能がよくなく、せいぜい
核と
核小体が広く知られるくらいであったが、これが様々な細胞に、また動物にも植物にも見られたことが、それらを同じ「細胞」なるものと見なす大きな根拠となった。この当時は、たとえば植物細胞と動物細胞では
細胞膜の厚みが極端に異なること(植物の細胞壁が細胞膜と考えられていたため)などから難色を示す考えもあった。しかし、研究が進むにつれてむしろ共通性が確認されたことはあるが、異質性が強いことが重視されたことはない。研究に
電子顕微鏡が使われるようになって、この点はさらに強まった。
これらのことは、外見では大きく異なる動物や植物の違いも、細胞のレベルまで下るとその差が大きくないことを意味する。これはまた、特定の
モデル生物を使っての細胞以下のレベルでの研究が、より広い生物に適用できる一般性を持つことの裏付けでもある。
なお、実際には生物における
細胞のあり方は様々である。また
原核生物が発見されたことで細胞への見方は大きく変化した。そのような例は数少なくない。しかしそれらは細胞の概念をより一般化することを助けたとも言える。
◆ 前史
顕微鏡の発明と発展に伴って、生物から細胞が発見されたのは1665年、
ロバート・フックによる
。彼が最初に見たのは
コルクの断面であり、そこに見えるのは細胞壁のみのいわば細胞抜け殻であったが、彼は後に生きた植物組織も観察し、そこでは細胞内に液体が入っていることなどを見いいだした。その後様々な生物学の分野で細胞が観察されるようになる。
細胞説へとつながる研究の流れの一つに
病理学がある。病気をその体に起こる病変として研究する病理解剖学は、顕微鏡の使用によって組織レベルの観察を積み重ねた。フランスのビシャー(Marie Francois Xavier Bichat 1771-1802)は、組織を区分することを初めて提案し、その後続は組織をさらに詳細に研究対象とした。彼は顕微鏡を用いなかったが、ミュラー(Johannes Peter Mueller 1801-1858)はこの分野で最初に顕微鏡を使い、多くの知見を蓄積した。
また、
発生学の分野では、
卵割が観察され、これは細胞の概念に影響を与えた。ただし発生学自体は細胞を見いだすことなく、むしろ細胞説の成立によって大きく進み始める。
さらに、19世紀初頭から植物の組織についての研究が行われ、ミルベ(Chaeles Brisseau Mirbel 1776-1854)、ブラウン(Robert Broun 1773-1858)、モール(Hugo von Mohl 1805-1872)などが活発に研究を行った。
また、これに平行して細胞の内部、特に核の発見は重要である。最初の発見はイタリアのフォンタナ(Felice Fontana 1730-1805)で、ウナギの皮膚細胞から発見したが、その意味はわからなかった。その後チェコの
ヤン・エヴァンゲリスタ・プルキニェ(Johannes Evangelista Purkinje 1787-1869)が鶏卵で(1825)、ミルベルが植物細胞で発見(1831)、同年、さらにブラウンがランなどを観察してこれがすべての細胞に存在するものであると認め、これに『核』の名を与えた。核小体もこの頃には確認されている。このことは、細胞という構造の共通性を認識させる上で重要であった。
なお、顕微鏡はこの頃まで単式のものが使われ、その性能は十分なものでなかった。複式はあったものの球面収差と色収差がひどいものであり、これが改善されたのは1830年代である。実際にはそれが使われるのはさらに少し後であるらしい。
◆ 細胞説の成立へ
こうして次第に細胞の存在とそのあり方が注目されるようになる。特にプルキニュとその一派は細胞説にごく近づいていた。彼は動物の
上皮組織と植物の
柔組織の類似に注目し、また、動物の組織が液体・繊維と小球から成り立つと述べた。この小球が細胞である。ただし同時に細胞膜の厚さの違い(植物の細胞壁)などからそれらを同一と見なすことに難を感じていたようである。
・細胞説 page1
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